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【横浜DeNAベイスターズを語る】その③〜佐野恵太を分析する〜

 こんにちは。この地で風切りです。

 みなさん、所謂シンデレラストーリーのような物語はお好きでしょうか?無名だった人物が何かのきっかけを掴むことで、一気に成功や注目を手にすることをこのように呼ぶことが多く、様々な人々に夢や希望を与えることからも大変な人気がありますね。

 語源となった童話『シンデレラ』はもちろん、近現代の漫画・アニメ作品でも、無名が成り上がる、廃部寸前の部活動が奮闘し一躍有名になる、などといったシナリオの作品は多くの方々の心を揺るがしたことでしょう。

 これは創作上の話には収まりません。プロ野球の世界にも多く存在しています。

 例えば最もポピュラーなところはイチロー氏。松井秀喜氏やダルビッシュ投手、大谷翔平選手等のドラフト1位入団のメジャーリーガーとは異なり、彼はドラフト4位でプロ入りしています。決して、最初から注目されていた、というわけではなかったのです。

 また、福岡ソフトバンクホークスのエースである千賀滉大投手や、同チーム所属の甲斐拓也選手、周東佑京選手に至っては育成ドラフト出身と、正真正銘の無名からのスタートでした。オリックスバファローズのエース山本由伸投手も高校時代は決して有名ではなく、ドラフト4位。このような選手がプロの世界の第一線で活躍するというのは、多くの野球少年に、そしてファンに夢を与えることでしょう。

 

 さて、我らが横浜DeNAベイスターズにも、この例に漏れない選手が多く存在しています。ほんの一例ですが、ご紹介しましょう。例えばハマの番長と愛された三浦大輔現二軍監督はドラフト6位入団で通算172勝。石川雄洋選手も同順位で入団ながら、DeNA創設時には初代主将に就任。昨季には通算1000安打も達成しました。そして現在主将を務める佐野恵太選手もまた、ドラフト9位からのプロ野球人生が始まっています。

 前置きが長くなりましたが、今回は佐野恵太選手について、私なりに分析をしてみたいと思います。

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新主将の佐野恵太選手(左)。彼の活躍の秘訣に迫りたい

 

[佐野恵太選手の目覚め]

 DeNAの新主将、新4番打者は佐野恵太、と聞いてピンとこないプロ野球ファンも、開幕前には多くいたことだと思われます。それもそのはずで、彼は2019年終了時点では代打での出場を主としており、通算でも180試合に留まっていた控え選手でした。代打としての活躍は素晴らしいものでしたので、セントラル・リーグのファンの方であれば名前くらいはご存知だったかもしれませんが、それでもいきなりこの重役を任される、ということには驚きだったでしょう。

 主将で4番打者、というポジションには筒香嘉智選手(現タンパペイ・レイズ)が構えていたわけですから、そのポストに無名の控え選手が就いたわけです。

 チームには2年連続本塁打王のN.ソト選手や首位打者のタイトル実績のある宮崎敏郎選手。新助っ人のT.オースティン選手など、他にも4番を打つに相応しい強打者がいる中でのあえての4番佐野。今列挙した選手は全て右打者、というバランスの兼ね合いで左の佐野選手を据えることは理には敵っていますが、それでも疑問に思うファンは、私がTwitterを見る限りでは多く見受けられていました。まして主将も兼ねるわけですから、実績が少なく、今季からレギュラーへの挑戦、という立ち位置であった佐野選手には荷が重すぎるのでは。そう心配されていたわけですね。もちろん私も、否定まではしていませんでしたが、4番として育てるのが中心となり、大活躍は見込めないだろうと想像をしていました。今年は我慢して4番として育成し、来季以降のブレイクに期待、そのように描いていました。

 実際、オープン戦こそ打点王に輝き、開幕直前に合わせて本塁打を放ち始めるなどの調整力は見せつけてくれていましたので、その時点で想像より結果を残すかも、までは思いましたが、コロナで開幕は延期。6月の練習試合では終盤までほとんど快音が響かないなど「運」も悪かったかな、と思わざるを得ない状態でした。

 

 ですが、私は佐野選手、そしてその能力を新人の頃から見出し続けていたラミレス監督に謝罪しなければなりません。この2人をあまりに見くびっていた、その事実を、彼は試合に出るたびに突きつけてきたのです。誠に申し訳ございませんでした。

 8月3日現在では、ここまで全試合4番で出場し打率.345 5本塁打 21打点。安打数はリーグトップを走り、OPSは驚異の.935(OPS:野手の能力を測る指標の一つ。出塁率+長打率。.800を越えると非常にいい数字だとされている。柳田悠岐選手(ソ)や鈴木誠也選手(広)レベルになると1.000を超えてしまう)

 本当に開いた口が塞がらないですよね。ここまで立派に、文句なしの4番打者の成績を出すとは思ってもいませんでした。まだシーズンの3分の1しか消化していませんが、それでも文句がありません。1ヶ月以上も打率を維持し、本塁打や打点に至ってはここ数週間で一気に伸ばしてきました。研究もされるでしょうし、今後打てない時期は訪れるかもしれません。しかし彼ならその度にまた壁を超えるのではないか、そう感じさせられます。 

 

[佐野選手のデータを分析する]

  では、佐野選手はなぜこうまでも数字を残せているのでしょうか。ここからは、2020年度のこれまでの38試合、そして2019年度のデータを比較、深堀しながら、その秘訣に迫りたいと思います。(以下のデータは全て「データで楽しむプロ野球https://baseballdata.jpより引用しています)

 

 まずはBABIPに注目したいと思います(BABIP:ホームランを除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合。投手の被BABIPは平均で3割程度に落ち着き、そこからの乖離の大きさで運の良い悪いが数値に現れる。野手の場合は投手ほどの信憑性は薄いが、同じように運がいいのか悪いのか、なんとなくはわかるらしい)。

 例えば、昨季序盤から中盤にかけて大活躍し一気にレギュラーに躍り出た神里選手は、打率が.324で首位打者に立った時期の同数値は.442。非常に幸運だったとも捉えられ、現にシーズンが終わる頃には打率も.270付近まで収束していました。

 佐野選手はどうでしょう。

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2020年ここまでの佐野選手のBABIP

  こちらが現在の佐野選手のBABIP数値です。打率.345との乖離は小さいものですが、ここから打率低下の可能性を孕んでいるという表れでもあるかもしれません。とはいえ、昨季も打率.295に対して、BABIPは.346もありながら急な不振に陥ることはなかったわけですので、大した心配要素にはなり得ないと判断します。不振に苦しむ時期が訪れたとしても、この数値の影響というよりは厳しい配球やマークなどの他の要因が主なところとなりそうです。

 次に、得意なコースと選球眼について見ていきましょう。

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ここまでの佐野選手のコース別打率

 ご覧の通り、非常に内角に強いことがわかります。強打者たるもの内角を厳しく責められるのは宿命とも言えますが、昭和の時代の死球攻めならばともかく、これだけ内角を打てる力があれば問題なさそうです。高めに浮いてる甘い球を逃していないことも読み取れます。

 しかし対照的に、外角の低めのコースを苦手としているようです。今季は三振も非常に少ない佐野選手ですが、全19三振のうち3分の1近い三振をこのコースで喫しているのですね。

 こちらの図をご覧ください。

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ここまでの佐野選手の球種別安打割合

 直球に対して.390という驚異的な強さを示していますが、気になるのはフォーク系の変化球への打率。このことから見るに、外角低めの落ちる変化球を投げられると厳しいのかもしれません。

 ただ、これに関しては興味深いデータもあります。

 こちらは昨季の佐野選手のコース別打率なのですが、どうでしょうか。今年のこれまでとは全く対照的ですよね。内角にめっぽう弱く、外を叩いています。

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2019年の佐野選手のコース別打率

 先ほど苦手としているようです、としてあげた外角の低めのコースを最も得意としており、なんと4割という数字。

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2019年の佐野選手の球種別安打割合

 また、昨季の球種別安打割合を見ますと、フォーク系の球を得意としており、3割の数字を残しています。

 ということは、です。仮に今後、相手球団が佐野選手を研究し、今季苦手な外角低めを攻めたとしても、最初は苦しむかもしれませんが、適応できる可能性があるということですね。いよいよ、佐野選手は通年でも3割の打率を残せるのでは、という期待が膨らんできます。

 

 最後に、選球眼は大丈夫なのかについても見ていきましょう。どれだけストライクゾーンで弱点を限りなく減らしたとしても、ボール球に釣られてしまっては成績は落ちてしまいます。

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ここまでの佐野選手のボール球見極め率等

 この数値を見る限り、十二分な選球眼があると読み取れるでしょう。今季だけ、というわけではなく、昨季の見極率も71%という数値でした。強打者たるもの、打てない時期にどれだけ四球を稼げるかも重要ですし、また厳しい攻めに対してもボール球にまんまと手を出さないことも重要ですので、これは立派な数値と言えましょう。また同時に、ストライクゾーンでの空振り率の低さも素晴らしいです。今季は三振が少ない、と先ほども述べましたが、これはおそらく、打席毎に狙い球をしっかりと設定し挑めているから、かもしれません。こちらは代打で培った経験でしょう。

 ただ、これはあくまでここまでの数字。攻めが厳しくなり、それこそ筒香選手等へと同等の配球が敷かれた時、同じ見極率を維持できるとは限りません。

 

 しかし、佐野選手はここまで規格外の対応力を見せてきてくれました。また、佐野選手頼りの打線ではなく、ソト選手、宮崎選手、梶谷選手、オースティン選手、ロペス選手など他にも強力な顔ぶれが並ぶ打線の中の1人の打者にすぎません。佐野選手自身もこれは理解しているところで、1ヶ月も本塁打が出ないという苦しい時期でも、その時の自分にできることを考え、そのために仕事をしていました。これだけの選手がドラフト9位から出てきたというのは驚きです。正直、ここまでの通算210試合と少しだけでも十二分なお釣りがきます。

 

[ズバリ、今季の佐野選手の成績予想は]

 

 今日は佐野選手について語らせていただきました。まとめとして、これらデータ、そして佐野選手のデータには現れない対応力や野球選手としてのあり方を踏まえ、誰得でもありませんが、2020年120試合終了時点での佐野恵太選手の成績を予想してみたいと思います。

 

 打率.302 19本 68打点 OPS.890 という予想です。

 

 規定打席で3割に乗れるのではないか、本気でそう期待しています。

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私が本気で規定打席到達3割を期待する佐野選手。現実となってほしい

  あくまで私の主観ですし、データを都合よく捉えているだけにすぎないかもしれません。しかし、ファンとしてこのような分析や予想をするのは単純に楽しいものですね。まだまだセイバーメトリクスなどについては勉強中の身分ですので、BABIPの項については誤りや解釈違いもあったかもしれません。ご指摘などありましたらお願いいたします。

 

 では、今日はこの辺で。頑張れ、佐野選手!